市場が成熟しきった現在、サービスやプロダクトの価値は、料金や機能性というよりも、それを使うことによって「どのような体験ができるのか」という「ユーザー体験」に移行してきています。そのような背景の中で、ここでは最近外資系コンサルティングファームやシリコンバレーの企業でもブームになっている「デザインシンキング」について解説していきたいと思います。なぜなら、「デザインシンキング」は「人を中心」に据えて、より快適な「ユーザー体験」をデザインすることを目的に以下の5つのプロセスにより実施される問題解決手法として知られているからです。
1.共感
まず、ユーザーインタビューやアンケート、観察を通じて、対象となる情報を収集します。 収集した情報をもとに、ペルソナ(典型的なユーザー)となる人物像を特定します。次に気になったコメント・事実についてリストアップし、それらについてチームで話し合い、解釈した結果を「インサイト(洞察)」として書き出します。
2.問題(課題)定義
導き出した「インサイト」をもとに、ユーザーのニーズを考えます。本当は何を実現したいのか、潜在的な課題は何なのかを深掘り、抽出していきます。そして、「ユーザーの解決すべき課題」を定義します。
3.発想(アイデア)
上記で定義した課題を解決するため、チームでのブレインストーミングを行い、多くのアイデアを出します。そして優先順位の高いものから1つに絞り、その内容をコンセプトとしてまとめ、次のプロセスに進めていきます。
4.プロトタイプ
3で出たアイデアを検証できるプロトタイプと呼ばれる試作品を作成します。
5.テスト
試作品のユーザーテストを通じてアイデアの評価を行っていきます。フィードバックをもとにプロトタイプを改善していきます。
このように、デザインシンキングではユーザーインタビューから始まって試作品の作成、ユーザーテストまでを行いますので、カバーするスコープが広範に渡ります。ですが、アイデア出し(発想法)の部分に限って言えば、KJ法によるブレストと類似した手法をとっています。(後述)
デザインシンキング(発想フェーズ)―ブレインストーミングの進め方
ここでは、前ステップで定義した「解決すべき課題」に対して、「どうすればできるのか」というアイデアの出し方、ブレインストーミングの進め方について解説します。
まず、チームメンバー全員にポストイットを配り、メンバーそれぞれがアイデアを考え、ポストイットに書いて、ホワイトボードに貼っていきます。その際、アイデアは具体的かつ簡潔に記述し、ファシリテータはタイマーを用意して、1つの問題に対して「3分間」の制限時間を設け、集中して最低1人10個以上のアイデアを出すよう促します。
3分経ったら、さらに様子を見て1~2分間延長時間を設けます。
次に、たくさん出たアイデアをカテゴリーごとに分けて、投票基準に基づいて投票を行います。投票基準としては以下の3つが考えられます。
- 最も成功する可能性が高い
- 最もユーザーを喜ばせる可能性が高い
- 最も画期的である
これらの基準から選ばれたアイデアについて
(1)「どんな価値があるのか」
(2)「どのようなユーザーにフィットするのか」
(3)「実現への障害は何か」
という観点から内容をクリアに定義しながら、最後に「コンセプト」としてまとめていきます。(下図参照)
KJ法と比べ、デザインシンキングのブレインストーミングのユニークな点は、投票基準を事前に設け、ポイント制を用いて、最終的な判断をメンバー全員による「投票」で決定する点にあると思います。フラットな会議方式も含め、非常に民主的な方法であるといえます。